「卵自体は以前から好きでした。オムレツも食べますし、中国料理にも卵を使った料理は多いですから。でも、香港のスーパーで、たまたま店員から『生でも食べられますよ。日本では、ご飯にかけて醤油をたらして食べるんです』と声をかけられて、びっくり。日本からの輸入卵で恐る恐る食べてみたら、おいしかったので、ハマってしまいました」

SNSによく料理を載せている香港の知人女性が「今朝のご飯」として、卵かけご飯と納豆の写真を載せていたので聞いてみると、こんな返事が返ってきた。この女性は何度も日本に遊びにきたことがある“日本通”だが、これまで日本に「卵かけご飯」という食べ物があることは「全く知らなかった」という。

ところが、昨年、自宅付近にできた日系スーパーの『ドンドンドンキ』に行ってみて初めて「卵が生で食べられる」ことを知り、日本産の卵パック(6個入り)を購入。以前から食べていた納豆とともに、今では週に1~2回、食べているそうだ。

日本でも2月5日に報道があったので記憶にある読者も多いと思うが、日本の農林水産省が発表した2020年の農林水産物・食品の輸出は前年比1.1%増と好調で、中でも鶏卵など家庭向け農産物の輸出は、8年連続で過去最高となったことが明らかになった。

輸出が増えたものといえば、コメ(前年比15%増)、いちご(同24.8%増)、豚肉(同55%増)、緑茶(同10.6%増)などがあるが、鶏卵だけは、なんと2倍にまで輸出が増えている。輸出先の9割を占めるのは、なぜか香港だ(第2位は中国)。報道によると「コロナ禍で内食需要が増えたこと」が要因だとされているが、ここまで「日本産の鶏卵」が受け入れられているということに驚かされる。

農水省のサイトによると、現在、鶏卵の輸出ができる国・地域は香港やシンガポールなどに限られており、世界各国に輸出されているわけではないが、コロナ禍で日本の外食需要が減少している現在、香港への輸出がここまで伸びていることは、日本の生産者にとって一筋の光明といえそうだ。

それにしても、なぜ香港なのか?

前述の女性は「あくまでも予測ですが……」と前置きしつつ、こう語る。

「日本人が想像している以上に、香港社会には日本の文化が深く浸透しています。日本人がカルチャースクールやオンラインで気軽に英語を学ぶように、香港でも専門学校などで日本語を学ぶ人はとても多いですし、お店の広告とか、お菓子のパッケージなど、町の至るところで日本語の表示をよく見かけます。新型コロナの感染が拡大する以前は、1年に5回も6回も日本旅行に行くという友人も多かった。

もちろん、日本食が大好きな人も多いのですが、香港では今、新型コロナにより午後6時以降の店内飲食は禁止となっているので、夕食は家で食べるか、お弁当、デリバリーなどしかないんです。家でも気軽に食べられる気軽な日本食ということと、栄養価が高く、安い上に健康によいこと、日本産の食品は安心安全であること、などの理由で、卵や納豆の人気が高まっているんじゃないでしょうか?」

確かに、観光庁のデータを見ても、香港からの訪日観光客は非常に多い。

新型コロナの感染が拡大する以前の2019年には約229万人と国・地域別で、堂々の第4位だった。中国が第1位(約959万人)で、韓国(約558万人)、台湾(約489万人)が続くのだが、香港の人口はわずか750万人ほどしかない。同じ東アジア圏で距離的にも文化的にも近いとはいえ、人口で見れば、韓国(約5200万人)や台湾(約2300万人)よりもずっと少ない。香港からは年間で、3~4人に1人が訪日していたという計算になる。